四季の美しさを楽しめる日本庭園は、和風住宅の魅力を高める要素のひとつ。 日本の歴史に造詣が深く、寺社仏閣の散策がご趣味というHさまご夫婦。別邸の建築にあたり、銀閣寺に近い閑静なこの場所を選ばれました。
古都の家並みに調和するように、建物は数寄屋造にしています。また来客と四季を楽しむために、京都の庭文化を表現した日本庭園をつくりました。
建物と庭の両方から風格とやすらぎが感じられる、伝統美あふれる邸宅になりました。【Hさまの要望】
・京都の四季を楽しめる住まいにしたい
・お招きしたお客様に喜んでいただけるような空間にしたい【物件データ】
■所在地:京都府
■敷地面積:約400m2
■建築面積:129m2
■延床面積:163m2(1階118m2 2階45m2)
■建ぺい率:50% 容積率: 80%
美しい数寄屋造の外観
正面の歌舞伎門が、一段と伝統美を醸し出している。
随所から日本の伝統美が感じられる外観です。
建物の屋根は格式の高い“入母屋”です。下屋庇と入母屋部分のバランスも良く、奥深いひさしの陰影と白い壁の対比が美しいですね。また下屋は瓦を軒先まで葺かずに銅版を見せる“腰葺”を取り入れています。
さらに破風を薄く仕上げることで、軽快な数寄屋の美しさが存分に感じられる佇まいとなっています。住まいの正面には、門の上に瓦屋根を取り付けた”歌舞伎門”を設けています。これはご主人とデザイナーが古都の門構えを見て歩き、苦心して設計したものだそう。屋根には銅版風の屋根材を用い、品格を備えながらも現代風の印象にまとめられています。
また門の壁は、建物外壁と同じ“京聚楽”の塗り壁で仕上げています。これは建物をより大きく見せる効果があります。敷地からは、京都の夏の風物詩・大文字焼きが眺められます。四季を十分に楽しむため、最も美しく眺められる2階部分に大きな出窓を設け、ご家族や来客と鑑賞されているそうです。
風情ある中庭を楽しむ玄関ホール
中庭の灯篭のあかりが、障子を通してやわらかく玄関を照らす。
お客様のお迎えを意識した、広々とした玄関ホールです。
訪問客を玄関からそのまま客間にお迎えできるように、左側が「ハレの場」であるパブリックゾーン、右側が「日常の場」であるプライベートゾーンに分けたプランです。
入口に格の違う“のれん”を掛けて、ハレと日常を表しているそうです。伝統的な和風住宅では玄関ホールを“取次”と呼び、正座してお客様をお迎えできるように畳敷きするケースが多く見られます。このお住まいは畳敷きを選択され、靴脱ぎ石は黒御影石、上がり框は檜、天井は杉板、壁は聚楽で仕上げ、和の趣を感じさせる空間になっています。
また中庭を望む窓は開口の小さい地窓にして、隣家を視界に入れない配慮がなされています。開口が小さいことで坪庭の垣根や灯篭に視線が集まる効果もありますね。
お客様をお迎えする二間続きの和室
三方の建具を開けると、より一層のびやかな空間になる。 パブリックゾーンにある、二間続きの和室です。
写真奥の8畳の和室の床の間は、床柱に杉の磨き丸太、違い床を備えた格の高い書院のしつらえです。
掛軸には、異なる字体で福の字を100書き表した“福百選”を掛け、招かれた人の福を願う心を表しています。また、お客様にくつろいで過ごしていただくために、一年を通して掘りごたつを使用しています。夏の間は足元にさらりとした素材の敷物を敷き、四季を感じていただくそうです。
廊下を兼ねた、畳敷きの広縁
広縁には、屋内と屋外をゆるやかにつなげる効果も。
取次から通じる、廊下を兼ねた広縁です。広縁とは、和室と庭との間にある、幅の広い縁側のことです。和室に広がり感を与えたり、日差しを遮り和室の畳が焼けるのを防ぐ役割もあります。このお住まいは取次も畳敷きのため、広縁もすべて畳敷きにされています。広縁の畳が日差しで焼けないように、巻き簾を室内側へ設けています。これをすっきり収納できるように、カーテンBOXも設けられています。
京都の庭文化を表現した庭園
囲い屋根で区切られた、二つの表情を持つ庭園。
二間続きの和室からのぞむ広々とした庭園です。
和室に近い内庭を石庭に、内庭を囲む外庭は樹木を植え和庭としています。昔の京都では、間口が狭くて奥行きが深い「長屋」が多く建っていました。少しでも採光や通風を確保するために、長屋には中庭を設けたそうです。そして中庭には白川の砂を敷き詰め、太陽や月の光を反射させて屋内を照らし、苔が生した石を置いて気温の上昇を防ぐなどの工夫をしていたそうです。京都の住まいならではの庭文化と言えますね。このお住まいでは、内庭の足元には白川風の砂を敷いたり、石を中央に配して、京都の庭文化の手法を取り入れています。
さらに内庭と外庭の境界として、囲い屋根を設けています。夏は囲い屋根の下に吊灯篭を掛けることで夜の庭を楽しむことができます。また囲い屋根は、建物が鬼門の方位へ張り出さないための配慮でもあるそうです。
【今回のポイント】
書院と数寄屋の違いを知って、日本建築を見てみよう日本建築を見る時に、「書院」と「数寄屋」の造作、つまりデザインスタイルの違いを知っておくと伝統美をより楽しむことができるでしょう。書院は、鎌倉時代の武士が権力を誇示するために造った、格式のある空間様式がベースです。格式は主に床の間の付書院、違い棚、長押で表現されます。さらに天井や襖などに金箔を用いたり、豪華絢爛な絵が描かれることもあります。建物の外観は、寺社仏閣のような重厚さが感じられます。数寄屋とは、書院ほど格式を重んじず、自由な精神で造られた趣味的な建築のことです。安土桃山時代に広まった茶室は、主に数寄屋で造られています。床の間の造作は書院とほぼ同じですが、好きな材を用いて建てられているため、建築主のセンスや知性が表れます。外観は書院ほど重厚さがなく、粋で軽やかにまとめられていることが多いです。
Hさんのお住まいのように、近年の和風住宅は数寄屋の手法を取り入ることが多いです。また外国では日本建築のことを数寄屋と表現することもあるそうです。造られた時代が違うだけで、どちらも日本人の美意識から生まれた魅力あふれるデザインスタイルです。また格=価値・値打ちとはならないのことが、その魅力を一層深めていると言えるでしょう
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