第1話-家づくりに適齢期はない
75歳の女性が数年前に御主人を亡くされ、一人暮らしにも関わらず建て替えを依頼されたことがあります。その動機は昔見た映画のワンシーンにありました。
「ある映画のらせん階段のある部屋のシーンが忘れられない。」
「あんな空間に暮らしてみたい。」
いつか家を建てる時には「らせん階段のある空間で生活したい」とずっと想い続けていたそうです。初めて相談を受けた時、私はその話を聞いてびっくりしたものです。年齢、建て替えの動機ともに驚きましたが、つくづく家と人間は深い関係をもっているものだと思いました。また家の果たす役割の大きさ、住まいとはまさにドラマをつくるものなのだと改めて教えられました。その後家が完成し改めて訪ねた時、その婦人はなんと赤い帽子をかぶってらせん階段を下りてきて私を迎えてくれました。その様子はまるで映画のワンシーンでした。生き生きした素敵な笑顔が印象に残っています。
想いをかたちに、そしてそこで暮らす時間、空間、そして仲間。ここに住まいの本質があり、豊かさがあるのではないでしょうか。家づくりに適齢期はありません。毎日を過ごす場、その場こそ一番大事にしてほしいと思います。75歳の婦人は残された人生はそれほど多くはないかもしれませんが、お金や時間ではなく空間の豊かさ、生活の豊かさを手に入れたのです。
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次は働く母親の家づくりストーリーです。
第2話-引き算で家族の絆を深める
ある人の紹介を受けて40歳代の女性と子ども3人の家族の設計依頼を受けたことがありました。この施主の始めの動機は、子供が成長してきたのでもっと広い家に移りたいということでした。そしてアパートに引っ越すか、あるいは両親が近くにいるので二世帯の家を建てた方がよいのか悩んでいました。
というのも御主人とは離婚し自分は忙しく働いているため、子供との会話が減り、だんだん家族の心が離れていっているような不安を感じていたためでした。
そこで私達は家を持つことの意味ではなく、建てることの意味について議論しました。単に箱をつくるのであればそれは建物です。そうではなく建築をつくってほしいと思いました。建築とは心の構築なのです。心を構築するには家族全員が家に対して想いや役割を語ってもらい、語ることで家族共通の絆が生まれるのです。このような共通の話題を家族全員で話すことは家づくりならではのことです。家族の想いや役割はやがて家族共有の空間になるのです。収入が少ないため、住宅ローンを組んでもらえる銀行は3軒目で見つかりました。そこで女性を突き動かしたのはやはり建物をつくるのではなく、建築をつくるのだという家族の絆でした。完成後、その女性と再会した時「以前よりも家族の会話が増え明るくなった」と朗らかに話してくれました。住まいによってこんなにも家族関係が変わるということを改めて気づかされました。
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